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誰かの場所の複数

残念な感じです

友人の俳優引退の報を聞き思うことなど

昨日昼日中酒を呑んで寝ていたら友人から「俳優を辞めて本格的に働くことになりました」という連絡が来た。信じ難かった。

大学入学時に知り合って丸13年。おれ達の周りで、一番しっかりとキャリアを積んでいたはずだ。端役だけど映画やドラマにも出ていたし、所謂芸能系の事務所にも所属していて、周りから好かれる人間だったし、貧乏にも強い人間だったので、俳優以外の彼を想定していなかった。食うためのバイトはしても、俳優としてカネを稼げている数少ない知り合いだったからだ。

最後に会ったのは2年か3年くらい前だろうか。江古田で酒を呑んでいて、帰るのが面倒になったので「泊めてくれ」と電話をかけて、彼のアパートまで押しかけて酒を呑んだ。部屋によつばと!が置いてあったので「こんなもん読むっけ」と聞いたら「お前が彼女にフラれた時に彼女の家から持ってきたんだよ」と言われたことを今思い出した。

学生の頃彼と同じ舞台に立ったこともある。当時も今もゴミ以下の存在意義しかないおれはプライドと被害者意識だけは一人前で、迷惑しかかけられなかったし、双方にとって黒歴史に近いものがある。高田馬場のクソ狭い小屋で上演をしたのだが、覚えているのは、客と出演者がほぼ同数だったことと、おれの時計仕掛けのオレンジのアレックスの真似がダダ滑っていたことだけだ。あれは酷い出来後だった。

おれがサッカーの試合を最後にフルで観たのは2006年の事だが、その時、おれの隣には彼がいた。同じ年に、ジム・ジャームッシュの映画を観た帰りに、ビル・マーレイがモテ役を演じていたのに当てられて「大学生のうちにナンパを経験しておくべきだ」とどちらともなく言い合い渋谷で女性に声をかけてみたりもした。おれがブサイクなので失敗した。

もの凄く仲がいいわけでは無いし、滅多に合わないけれど、彼はおれの数少ない友人なのだ。何事につけても頑張らないまま借金とパチンコに明け暮れて親に寝食を依存しながら今年33歳になるフリーターのおれにとって、彼のような「頑張っている」友人は、誇らしい存在だった。

そんな彼が俳優を辞めるという。正直に書けば、今も事実を受け止められないでいる。

思うのは、「実家が関東圏にさえあれば」や「両親が潤沢な資産を持っていて仕送りが続けられる環境にあれば」ということだ。どんな表現でもそうだが、関東に産まれるかどうかという事は、続ける上でもの凄く大きな要因となる。親が死にさえしなければ、生活の上でかかるコストが段違いだし、食うための仕事も選びやすくなるからだ。運ゲーだとしかいいようがないけど、真実だと思う。おれみたいなクズがバイトで年収200万円以上はなんとか稼げるのも、東京産まれや(一応)大卒という、恵まれた者だけが持つ資産や、稼げるバイトを身内で廻せるという人間関係のアドバンテージが殆どだし、それが築けるかどうかは産まれた場所と両親に依存することが殆どだ。誰も親を選ぶことは出来ない。

勿論、おれが知る限りで彼は両親と良い関係を築いていたし、卒業式の時にはわざわざ上京をされていたとても立派な人達だから、こんな事を書くのは失礼千万だと言う子も承知している。だけど、勿体無い、という気持ちを拭い去る事は出来ない。辞めるべき奴はもっと沢山いる。彼には俳優としての才能があったのだ。

他人の生き方には口を挟めないけど、なぜかおれが滅茶苦茶落ち込んでしまっていて、これからどう生きいて行けば良いのかわからず、途方に暮れている。おれも本当に、社会の端っこに引き返すのは今しかないんじゃないか?