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誰かの場所の複数

残念な感じです

聖の青春見たんだよ

寝て起きたので映画の雑感書く。

ネタバレ有り。

行くか行かないか逡巡していた『聖の青春』ですが、新宿での夜勤が9時に明けるおれにとって、10:15分っていう丁度いい時間に上映してくれていたので、同僚と飯食ってからピカデリーまで移動して鑑賞してきた。おれは所謂「観る将」の人なのだけど、さのみ映画ファンでは無いので、国内産のアニメ以外の映画を見たのはわりと久しぶりでした。っていうか、所謂ヒューマンドラマ的なる物を映画館で観たのってそれこそ『KOTOKO』以来な気がする。

2年ほど前に大崎善生原作は読んでいて、伝説の丸山戦の棋譜や絶局となった木村戦の最終盤の解説動画、映画でも使われていた対羽生とのNHK杯決勝などは見ているので、村山聖という夭折した棋士についての事前知識はウォーズ1級でニーヨン12級のおれも(しつこいな)持っていたのだけど、新宿ピカデリーに集った客層の渋さたるや半端なく、お子様含めて全員将棋超強そうで、有識者面は出来ねぇぞこれ、と姿勢を正した所で映画がスタート。

始まって数分で「これは駄目かもしれない」という感覚が全身にまとわりついた、と言うことは正直に書いておこう。映画の冒頭、体調不良の暗示なのか知らないけどやたらと輪郭がぼやけた映像で大阪の街が映し出され、関西将棋会館に辿り着く事が出来ずに路上で倒れた村山聖に手を貸し、会館まで軽トラで送り届けた親切なおじさんの行動を映し出している。おじさんが村山聖をたった一組の対局しか組まれていない部屋まで運び、記録係に襖を閉められ、別室で多数の「将棋の国の人々」が目の前の一局に全力を賭ける姿を目撃した上で、出した台詞がこれだ。「あの兄ちゃん何者だ?」いや、将棋の棋士に決まってんだろ!あれ誘い受けなの?脚本が向井康介なのは知っていたので、学生時代に観た『青い車』も『リアリズムの宿』も『リンダリンダリンダ』も好きだっただけに、この明らかな「お客様に向けての丁寧な」台詞、ガクッときてしまった。

直後、何か重厚な感じの音楽流してからのタイトルバックに▲7六歩。ここまでで「駄目かもしれない」から「これは駄目なのでそのつもりで楽しんでいこう」にテンションを切り替えたのが功を奏したのか、映画そのものは実は結構楽しんで観ることが出来た。太った松ケンの肉体が醸し出す雰囲気や、ヤニで黄ばんだ歯を強調するために口を開けて笑うリリー・フランキーの表情作り、東出昌大羽生善治完コピと言って差し支えない対局姿勢は非常に良かった。カメオ出演なのに(クレジットあったわ)異様な存在感を放った田丸昇九段に中村真梨花女流三段や、クレジットでも破格の扱いを受けた山口恵梨子女流二段等、観る将へのファンサービスも絶妙なバランスだったと思う(ザキヤマ・イトシンも確認)。おれは1年前に世間に送り出された『ハーモニー』でトァンがワインをガブ飲みし、羊肉にかぶりついてくれなかったことに未だに腹を立てているのだけど、シチュエーションは兎も角として「一度でいいから女を抱いてみたい」という台詞を押さえていたりしてくれたことに対しては、村山聖という人間を描ききろうという誠実な態度を感じられたし、生活した部屋の小道具のちりばめ方も、人間の輪郭を浮かび上がらせる仕事を果たしていた。

ただ、弱点を上げれば切りが無い、というか、本当に駄目なとこだらけな映画で、「リアリティに拘った」みたいなことをニコ生の打ち上げで監督自身が言っていたのだけど、「リアリティとは何だ」と禅問答のような返しをしたくなるところだらけではあった。

一例を挙げれば、奨励会三段の染谷翔太が退会を決定づけられる一番がある。勿論このシーンの主役は染谷翔太なのだけど、敗北へのプレッシャーからか鼻血を絞り出しながらも盤を向かう染谷翔太と相対する、奨励会三段の顔があまりにも幼いのだ。ローティーンにすら見える。有史上奨励会三段リーグは、10代後半から20代中盤の戦場で有り、ローティーンは「天才の中の天才の中の天才」しか登場しない。26歳の青年を「殺す」一番の相手に、ローティーンにすら見える人間を配役するのであれば、そこには何かしらの意味があるのではと観客に思われて当然なのに、「適当にその辺の子」出させた感が全開で、雑としか言いようが無い。普通に20代中盤くらいの人間を相対させた方が、よほどリアリティが出る、とは考えなかったんだろうか。ハチワンの菅田を奨励会で殺した相手を見習え。まさか、ハチワン読んでないのか?

柄本時生が演じた若き日の先崎学描写は豪放磊落を通り越して「チンピラじゃん」の域で、まぁ先崎学であればあの程度にはチンピラだったのかもしれないけれど、棋士同士はもう少し慇懃無礼にやり取りするだろ・・・というのが正直なところで。その他、日常と特殊な世界である対局を対比させたいのか、所々に街の情景を挟んでみたり、「生」を浮かび上がらせたいという意匠が丸見えの鳥を映すカットや、90年代の東京が舞台なのに何故かSUICA対応の千駄ヶ谷駅を映してしまったり細部が「ダセぇ」と声を上げたいところだらけだったのも頂けない。駒音を響かせて、太鼓の音を鳴らせば臨場感出るんでしょ?と観客を舐めきった演出をかましてくれるところなんかは最悪だ。大事なことは二回言え、というインターネットの格言を忠実に守った終盤は、失笑を通り越して怒りすら沸いた。

ただ、ここまで書いてもなお「結構好きな映画」なので、BDが廉価で売っていれば観る将としては手元に置きたいなぁ、とは思ったし、色々最悪だったけどキャストが良かった映画として個人的には『ハーモニー』と同じ系譜に連ねておきたい一作でした。あと、女子高生のルーズソックス最高。

次は『艦これ』ですかね。観るのかなー。金無いんだよなー。